皆さんこんにちは。博多やすらぎクリニック院長の千々岩です。

暑くなったり、涼しくなったりと、こう不安定な気候が続くと、自律神経の調子を崩してしまい、風邪をひく患者さんも時々見られます。

実際にうちのクリニックの看護師長も、先週まで風邪をひいており、立て直しには苦労したようです(;^_^A
ということで、院長のやすらぎ漢方講座の二つ目は風邪に有名な「葛根湯」を取り上げてみましょう。

それにしても、「葛根湯」ほど有名な漢方薬は存在しないでしょう。漢方薬には全然興味がない人でも、葛根湯だけは知っているという人は少なくないですし、テレビでもカコ〇ールという、葛根湯と解熱鎮痛剤をミックスしたドリンク剤のCMがバンバン流れています。そして漢方メーカーの雄、ツムラの医療用漢方製剤のナンバリングでも、葛根湯は その有名さ故なのか、1番の背番号を与えられています。

これだけ葛根湯が有名な理由はどうしてなのでしょうか? 私が思うに葛根湯がメジャーである理由の一つは、江戸時代の落語の「葛根湯医者」の存在が大きいかもしれません。知らない方のために、あらすじをお教えしましょう。

あるところに来る人来る人に漢方薬の葛根湯を薦める医者がいました。

医者「頭が痛い? 頭痛ですね、葛根湯をおあがり。」
「次は胃痛? 葛根湯をおあがり。」
「今度は筋肉痛? 葛根湯をおあがり。次は…」

「先生、私は単なる付き添いですが…。」

医者「付き添い? 退屈でしょう、葛根湯をおあがり。」

この落語における「葛根湯医者」は、「どんな病気にも葛根湯を出してごまかしてしまうヤブ医者」という意味ですが、その他にも「葛根湯のようにどんな病気でも治してしまう名医」とか、「いつも葛根湯を服用して仕事をしている不養生な医者」といった意味もこの言葉には含まれています。

私自身としては2番目の葛根湯医者になりたいものですが、実際は3番目が近いような気がします(;^_^A…。
このように「葛根湯医者」という言葉をひも解いてみると、葛根湯とは非常に応用範囲の広い優れた処方である、ということがよくわかります。実際、葛根湯の適応病名を見てみると、「感冒、鼻かぜ、炎症性疾患(結膜炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん」と実に多くの病名が書かれてあります。

さて、前回の八味地黄丸でも解説したように、全ての漢方薬は、主に植物由来の「生薬」がチームを組むことで構成されているのですが、葛根湯の場合、7つの生薬から成り立っています。
それぞれを簡単に紹介すると…

葛根:マメ科の葛(くず)の根。秋の七草の一つ。下痢を止め、筋肉の緊張を緩める作用がある。葛根湯が肩こりに効く理由の一つ。

麻黄:シナマオウの地上茎。主成分はエフェドリン。交感神経興奮作用をもつ。

桂皮:クスノキ科のケイの樹皮。香辛料シナモンとして有名。

芍薬:ボタン科のシャクヤクの根。芍薬の芍とは「輝くような、明らかな」という意味。鎮痛作用や血管拡張作用、痙攣を止める作用を持つ。

大棗:クロウメモドキ科のナツメの果実。初夏に芽が出るので「ナツメ」。

生姜:ショウガの根茎を乾燥させたもの。吐き気を止め、胃を温め、発汗作用を有する。

甘草:マメ科の多年草、カンゾウの根茎。漢方薬の約7割に含まれており、甘さは砂糖の200倍とも!炎症抑制、解毒、痛み止めの作用を持っており、生薬同士の効果を増強したり、マイルドにしたりといった、「調整役」としての作用もある。

このようにこれらの生薬は、様々な薬理作用を持っているわけですが、それぞれがバラバラに働いているわけではなく、ペアを組む相手次第で、互いの効果を高めあったり、相手が持つ刺激性や毒性を和らげたり、といった効果を発揮します。例えば葛根湯の場合…

桂皮+麻黄 ➡発汗作用の増強

麻黄+甘草 ➡咳を鎮める、気管支をより拡張する。

芍薬+甘草 ➡筋肉の緊張を緩める。

桂皮+甘草 ➡のぼせ、頭痛の改善。

桂皮+芍薬 ➡痛みや汗の出過ぎを抑制。

大棗+生姜+甘草➡胃薬的に働き、麻黄による胃への刺激性を和らげる

といった具合にです。

ペアを組む相手が変わることで、チームに違った性格や持ち味が出るというのは、漫才やスポーツ(野球、テニス、プロレスetc)、楽器の演奏にも言えることであり、生薬たちについつい人間臭さを感じてしまうのは、私だけでしょうか(笑)。

次回は葛根湯がどうして風邪にきくのかについて、解説してみましょう。