皆さん、こんにちは。やすらぎクリニック院長の千々岩です。

前編では、加藤清正が漢方薬、香蘇散の薬効をもって、兵士たちのうつ気分を「揮発」させ、絶望的な籠城戦を戦い抜いたエピソードをご紹介しました。

そして、この香蘇散は香附子蘇葉陳皮、生姜、甘草の五味で構成されており、特に香附子、蘇葉、陳皮の3つには精油(エッセンシャルオイル)が含まれていること。
そしてこの精油成分は、嗅神経を刺激することで薬効の一部を発揮することをお話ししました。

後編では、これら香蘇散の薬理作用の要である、これらの生薬について解説してみます。

まず、香附子ですが、カヤツリグサ科の植物、ハマスゲの根茎を乾燥させたものです。

ハマスゲは雑草として、道端によく生えていたりするのですが、とても生命力の強い植物で、時にはアスファルトを押し上げて生えてきたり、芝生では増えすぎて他の芝を枯らしてしまうため、植物の中では嫌われ者の部類に属します。
しかし香附子には0.6~1%の精油(α-キペロン、キペロール、キペレン、スゲオノールなど)が含まれており、東洋医学的には健胃(胃腸を整える)、通経(月経調整)作用を有する、極めて使える生薬であり、なんと正倉院の保管薬物の一つであったりもします。

次に陳皮。これはお馴染み、温州ミカンの皮を乾燥させたものです(中国ではマンダリンオレンジ)。
陳皮の陳には「古い、老いた」という意味があり、これはミカンの皮は古いものほど薬用として珍重されることに由来します。

陳皮には柑橘類系の芳香のもとになる精油リモネン、主成分として配糖体ヘスペリジンが含まれており、抗不安作用、抗アレルギー作用、降圧作用などが知られています。

そして蘇葉、これは皆さんよくご存じの、紫蘇の葉です。

紫蘇には精油ペリルアルデヒドやロズマリン酸(ローズマリーから発見されたポリフェノール)といった有効成分が含まれています。

先ほどの陳皮と異なり、蘇葉は新しいほど品質が良いと言われています。

紫蘇の名前の由来には諸説あるのですが、三国志にも出てきた伝説の名医「華佗」にまつわるエピソードが有名なのでご紹介しましょう。

あるとき、洛陽の都でカニの大食い大会が開かれて、参加者の1人の若者が、食中毒を起こして重篤な状態に陥ってしまいました。

そこに現れたのが、名医華佗!

なんとシソを煎じて作った紫色の薬を飲ませて、たちまちその若者を蘇生せしめたそうです。
そこで、蘇生させた紫色の葉を紫蘇と呼ぶようになったとか…。

ちなみに香蘇散には、抗うつ作用や抗不安作用の他に、抗アレルギー作用が含まれており、花粉症や青魚を食べた際のじんましんなどにも応用が可能です。

私も、名医華佗には遠く及びませんが、昔、救急外来に来られたサバアレルギーを起こした患者さんに、香蘇散エキスを2包分飲んでもらった結果、一時間もかからずにすっかり改善し、大変喜んでもらった経験があります。

このように香蘇散には精油成分が多く含まれており、それがうつ気分の「揮発作用」として薬効を示していると考えられます。

わがやすらぎクリニックでも、ブラッドオレンジの精油をアロマディフューザーで診察前に使用したところ、患者さんだけでなく、私自身もリラックスして診察に臨めている気がします。

なかなか気分が晴れない人、鬱々とした気分に悩んでいる人がおられたら、加藤清正にならって漢方薬やアロマテラピーを活用するのも、良い方法かもしれませんね♬